東京高等裁判所 平成12年(行コ)196号 判決 2000年10月30日
控訴人
甲
右訴訟代理人弁護士
青木康國
同
山下清兵衛
被控訴人
越谷税務署長 唐澤孝好
右指定代理人
松村葉子
同
笹崎好一郎
同
大沼利光
同
永塚光一
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成八年七月九日付けでした控訴人の平成五年分所得税の更正のうち納付すべき税額一五三四万三五〇〇円を超える部分(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 被控訴人
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、控訴人が、株式会社A(以下「A」という。)に対し、控訴人の所有する土地区画整理事業施行地区内の仮換地を一億〇九二〇万円で譲渡し、右譲渡にかかる分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得金額について租税特別措置法(平成六年法律第二二号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条の二第二項一〇号(以下「本件規定」という。)が適用されることを前提として、納付すべき税額を一五三四万三五〇〇円とする平成五年分の所得税の確定申告をしたところ、被控訴人は、右譲渡には前条項(号)は適用されないとして、納付すべき金額を二六八〇万〇二〇〇円とする所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことについて、右所得税更正処分(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの。以下同様。)及び右過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
一 前提となる事実
1(一) 控訴人は、埼玉県北葛飾郡松伏町が施行する越谷都市計画事業外前野特定土地区画整理事業施行地区内の仮換地である九五街区四画地の土地(地積三六一平方メートル)同九五街区五画地の土地(地積三六一平方メートル。以下併せて「本件土地という。」を所有していた。
(二) 控訴人は、Aに対し、平成五年七月二日、本件土地を一億〇九二〇万円で譲渡した。
2(一) Aは、本件土地を四区画に区分し、うち一区画(地積一八一・〇四平方メートル。以下「本件土地(一)」という。)について、その上に自ら建物を建築した上、本件土地(一)を右建物と共に乙外一名に譲渡した。
(二) Aは、丙に対し、平成六年二月六日、本件土地のその余の三区画のうち一区画(地積一八〇・七一平方メートル。以下「本件土地(二)」という。)を、丁及び戊に対し、同月七日、うち一区画(地積一八〇・九七平方メートル。以下「本件土地(三)」という。)を、己に対し、同年七月九日、うち一区画(地積一八〇・八七平方メートル。以下「本件土地(四)」という。)を、それぞれ譲渡した。
Aは、丙との間で、同年二月六日、丁及び戊との間で、同月七日、己との間で、同年七月九日、いずれも譲渡した各土地上に建物を建築する旨の各建築工事請負契約を締結し、右各請負契約に基づき、各土地上に各建物を建築した。
3 控訴人は、措置法三一条の二第三項の規定に基づき、本件土地の譲渡にかかる平成五年分の所得税について、分離長期譲渡所得の金額一億〇二六四万円、所得控除の合計金額三五万円、課税分離長期譲渡所得金額一億〇二二九万円、納付すべき税額一五三四万三五〇〇円と記載した確定申告書を申告期限までに被控訴人に対し提出して、確定申告をした。
4 被控訴人は、控訴人に対し、平成八年七月九日付けで、分離長期譲渡所得の金額一億〇二六四万円、所得控除の合計金額三五万円、課税分離長期条と所得金額一億〇二二八万九〇〇〇円、納付すべき税額二六八〇万〇二〇〇円とする所得税更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を一一四万五〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
5(一) 控訴人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、同年九月三日、異議審理庁に対し、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年一二月一七日、納付すべき税額二六七九万七二〇〇円として本件更正処分の一部を取り消し、本件賦課処分に対する異議申立ては棄却する旨の異議決定をした。
(二) 控訴人は、右異議決定を不服として、平成九年一月一六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、平成一〇年三月三日、控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決をした。
二 本件の主要な争点は、措置法三一条の二第二項一〇号(本件規定)に定める「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人」には、本件土地(二)ないし(四)の転得者から当該住宅の建設を請け負い、これを建設した本件土地の譲受人であるAが含まれるか否か、である。
原審において、控訴人は、本件規定に定める「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人」は、建設された住宅の建築基準法上の建築主であることを要するものではなく、建築主から当該住宅の建設を請け負い、これを建設した者を含む、などと主張し、被控訴人は、本件規定に定める「建設を行う」とは、当該譲渡における譲受人が右土地等の譲受人の地位にあるまま建築主になって建物を建設する場合に限定されるところ、本件土地の譲受人であるAは、本件土地を四区画に区分してこれらを転売しており、その一部である本件土地(二)ないし(四)については、Aが建物の建設を請け負い転得者が建築主となって建物を建設したのであるから、Aは、本件規定に定める建物の建設を行う者には該当しない、などと主張した。
原審は、本件規定が適用されるのは、当該土地等の譲渡が、特例建物の建設を行う個人又は法人に対しされた場合に限られると解されるところ、本件土地(二)ないし(四)については、Aは、丙らとの間で、注文者を丙ら、請負人をAとする建築請負工事契約を締結し、右請負工事契約の請負人として各建物建築工事を施工したと認めるのが相当であって、本件規定に定める「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人」には該当しない、などと判示して、控訴人の本件各請求をいずれも棄却した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
当事者双方の主張を含む本件事案の概要は、控訴人の当審における予備的主張を次に付加するほか、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の予備的主張)
仮に、本件規定に定める「建設を行う(者)」の意義の建築基準法上の「建築主」と同義と解するとしても、本件においては、Aは、建物を建築するに当たって住宅のモデルルームを建設し、各土地上に建設する建物には当該モデルルームの企画・設計を採用することなどを説明し、最終ユーザーの便宜を考慮してあえて注文住宅形式を採用したにすぎず、実質は建売住宅形式によったのと同様であるから、建築基準法二条一六号の「請負契約によらないで自らその工事をする者」に該当し、本件規定が適用されるべきである。
(被控訴人の反論)
Aは、控訴人から本件土地(二)ないし(四)を買い受けた後、右各土地を転得者らに売り渡す旨の売買契約を締結した上で、転得者らとの間で請負契約を締結し、転得者らが各人名義で建築確認申請をしたのであるから、建築主は転得者らであり、Aは、転得者らとの間で締結した右請負契約に基づいて転得者らが発注した建物の建築工事を請負人として受注し各工事を施工した業者であって、控訴人の主張する前記条項(号)に該当する者ではない。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、本件更正処分及び本件賦課決定処分はいずれも適法であって、その取消しを求める控訴人の本件各請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「理由」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二一頁八行目の「平成六年四月七日」を「平成六年二月七日」と改める。)。
一 控訴人は、本件規定に定める「建物の建設を行う個人又は法人」は、建設された住宅の建築基準法上の建築主であることを要するものではなく、建築主から当該住宅の建設を請け負ってこれを建設した者を含む旨主張する。
しかしながら、本件においては、(一) 控訴人は、Aに対し、本件土地を一億〇九二〇万円で譲渡し、Aは、右買受けにかかる本件土地を四区画(本件土地(一)ないし(四)に区分したこと、そして、Aは、乙及び庚に対し、本件土地(一)上に建物を建築した上で、本件土地(一)及び右建物を売り渡したこと、(二)(1) Aは、丙との間で、平成六年二月六日、本件土地(二)について、Aを売主、丙を買主とし、代金を三二五三万八〇〇〇円とする売買契約を締結し、また、右同日、Aを請負人、丙を注文者とし、本件土地(二)上に建物を建築する旨の請負契約を締結したこと、そして、Aは、右請負契約に基づき、本件土地(二)上に建物を建築したこと、(2) 丙は、同年四月七日、右建物についての建築確認申請をし、同年九月一九日、検査済証の交付を受けたこと、(三)(1) Aは、丁及び戊との間で、同年二月七日、本件土地(三)について、Aを売主、丁及び戊を買主とし、代金を三五〇〇万円とする売買契約を締結し、また、右同日、Aを請負人、丁及び戊を注文者とし、本件土地(三)上に建物を建築する旨の請負契約を締結したこと、そして、Aは、右請負契約に基づき、本件土地(三)上に建物を建築したこと、(2) 丁は、同年四月七日、右建物についての建築確認申請をし、同年九月三〇日、検査済証の交付を受けたこと、(四) Aは、己との間で、同年七月九日、本件土地(四)について、Aを売主、己を買主とし、代金を二九〇〇万円とする売買契約を締結し、また、右同日望ましい、Aを請負人、己を注文者とし、本件土地(四)上に建物を建築する旨の請負契約を締結したこと、そして、Aは、右請負契約に基づき、本件土地(四)上に建物を建築したこと、(2) 己は、同年一〇月四日、右建物についての建築確認申請をし、平成七年四月六日、検査済証の交付を受けたことを認めることができることは原判決認定のとおりであって、右認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、措置法三一条の二の規定は、税制調査会の答申で「現行土地税制の基本的な枠組みは維持されるべきであり、その手直しを図るとしても、優良な住宅地の供給と公的土地取得の促進に資するため、限定的な基準を設け、部分的なものにとどめるべきであると考える」との結論が取りまとめられたことを踏まえ、昭和五四年度の税制改正において、用地取得難が深刻化しつつあるといわれた小中学校用地等の公的土地の取得の円滑化及びその緊急性が高いといわれた都市地域における住環境として優良な住宅地等の供給に寄与する土地等の譲渡に限定して、所得税の負担の軽減を図るために創設されたものであり、また、本件規定は、昭和五五年度の税制改正において、土地区画整理事業施行土地の供給の促進を図るために措置法三一条の二の規定に追加されたものであって、右のように限定された本件規定の立法趣旨や本件規定の文理解釈等からすると、本件規定は、当該土地等の譲渡が特例建物の建設を行う個人又は法人に対してされた場合に限って適用されると解すべきであり、その解釈適用は租税負担公平の原則に照らし厳格にされるべきであって、安易な拡張・類推解釈をするべきでない。
前記認定した事実によれば、本件においては、Aは、丙らとの間で、本件土地(二)ないし(四)について、Aを売主、丙らを買主とする各売買契約を締結し、また、Aを請負人、丙らを注文者とする本件土地(二)ないし(四)上の各建物建築の各請負契約を締結し、右各請負契約に基づき、請負人として各建物を建築したと認めることが相当であるから、結局、Aは、本件規定に定める「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人」に該当しないことは明らかであるといわざるを得ず、また、右認定・説示したところに照らすと、控訴人の主張するように本件更正処分が租税平等主義に違反するあるいは処分庁の本件規定の解釈手法が不当であるということもできない。
そうすると、控訴人の前記主張は理由がない。
二 控訴人は、Aは、建築基準法二条一六号の「請負契約によらないで自らその工事をする者」に該当するから、本件規定が適用される旨予備的に主張する。
しかしならが、前記一で認定した事実によれば、本件においては、Aは、丙らとの間で、本件土地(二)ないし(四)について、Aを売主、丙らを買主とする各売買契約を締結し、また、Aを請負人、丙らを注文者とする本件土地(二)ないし(四)上の各建物建築の各請負契約を締結し、右各請負契約に基づき、請負人として各建物を建築したと認めることが相当であるから、結局、Aは、建築基準法二条一六号の「請負契約によらないで自らその工事をする者」に該当すると認めることはできず、他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、控訴人の前記主張は理由がない。
三 以上にみたとおりであって、本件更正処分の違法をいう控訴人の主張はいずれも理由がない。
第四結論
以上によれば、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)